東芝キヤリア技術史
11/68

10エアコンを開発。コンプレッサ、インバータ、制御、通信技術の発展とエアコンの省エネ技術への挑戦が始まりました。その後、ヒートポンプとインバータ技術の組み合わせはエアコンにおける省エネの核心技術として定着・進化を続け、2020年(令和2年)12月にはその貢献が認められ、「IEEEマイルストーン」に認定されました。また、1998年(平成10年)には業界に先駆けて家庭用エアコンにR22の代替冷媒としてR410A冷媒を採用し、環境への対応も行いました。 もう一つの母体である東洋キヤリア工業株式会社では、1953年(昭和28年)に『17M形国産ターボ冷凍機原型』を純国産化しました。この機器は当時東芝中央研究所にも納入され、後に建築設備技術遺産に登録されました。また、1994年(平成6年)に水冷チラーの更新需要で誕生したモジュールコンセプトは、システム最大容量の飛躍的増大を可能にし、ヒートポンプ技術を使った製品への熱源転換における市場を創出する大きな役割を果たしました。その後、Xフレームの採用、インバータ化、R410A化と進化を続け、東芝とキヤリアの業務提携後の最大のシナジー効果となり、現在のチラーの高い市場シェアへとつながりました。 第二世代では、1999年(平成11年)の(株)東芝と米国キヤリア社とのJVにより「東芝キヤリア」が誕生し、事業を業務用空調に集中するとともに活動のフィールドを国内からグローバルに拡大し、販売地域は142ヶ国、海外売上比率が約7割という大きな成長を遂げることができました。環境においては、1987年(昭和62年)にモントリオール議定書で決定されたオゾン層破壊係数ゼロ冷媒(代替フロン)への転換計画に対して世界規模で取り組みが加速するなか、2000年(平成12年)には「インバータ&グリーン戦略」のもと、業務用空調機のR410A冷媒への転換およびインバータ化で業界を先導しました。この戦略はATW(海外家庭用温水機)、冷凍機にも展開した他、コンプレッサ、インバータの大容量化技術とともに、ビル用マルチシステム、チラーにも展開しました。そして、2020年(令和2年)には世界初の大容量トリプルロータリーコンプレッサとデュアルステートインバータの開発に至りました。商品開発においては、グローバル市場のそれぞれの地域にタイムリーに商品を提供するための「ローカルフィツト開発」を加速する体制として海外拠点での設計現地化を進めてきました。日本では新技術開発、プラットフォーム設計を行い、海外現法へ技術展開するHub機能を強化し、アジア、中国、欧州、北米等のグローバル市場へ商品の拡大を行っています。また、海外のローカルエンジニアを指導する立場として多くの技術者が海を渡り、グローバルエンジニアとして海外拠点で活躍しています。先行技術開発においては、10年先の空調の姿を描いて新規技術開発テーマの発掘、新セグメントの発掘、先行研究開発企画の立案を行い提案することをミッションとした少数精鋭の‘NATセンター’(New Air-Conditioning Technology)が品川に設立され、産学連携、異業種交流等をおこない、成果として5年後をターゲットとしたコンセプト商品、要素技術の創出とヒートポンプを構成する4つのコア技術(4C)を軸とする技術体系の強化が提案されました。この提案は後にCAONSとして商品化、SPS回路として製品実装され、技術体系は今日の基幹技術(7+1C)に進化しました。 第三世代は、未来にむけて技術革新に挑戦していく時代になります。夏場の異常な気温上昇、気候変動による災害の頻発、COVID19という見えない脅威を実感させられる状況のなか、地球温暖化防止については、2016年(平成28年)のモントリオール議定書のキガリ改正において地球温暖化係数(GWP値)の高い代替フロンの生産量・消費量の段階的な削減が決まり、欧州では2030年の21%までの削減に向けてGWP値の低い冷媒への移行が始まっています。また、2015年(平成27年)の国連サミットではSDGsが採択され、社会全体がアクションを始めています。 そのような中で東芝キヤリアは2030年を見据えた将来にむけての次世代技術検討として、ARD(Advanced Research and Development)を川崎に設立し、①持続可能な都市のしくみづくり、②循環型経済の実現、③脱酸素社会への移行を基本方針に掲げ、次世代技術の創出に取り組んでいます。2021年(令和3年)3月、TCC次世代技術展をOnline開催し、第三世代に向けた技術開発の一端をご紹介することで、ヒートポンプ製品の未来像の創造と次世代を担う技術者のモチベーションアップに繋げていきます。今後は、空調機単独の機器のハード性能改善から連携によるソフト性能向上への変化へ対応するため、「繋がる」をキーワードに、コネクテッドテクノロジーとして、クラウド技術活用、他の機器との連携を模索し、グローバル市場に展開した空調機(フィジカル)からデータ取得してAIや機械学習を用いたデータ解析を行い、エネルギーの熱負荷需要予測、寿命・故障予測、冷媒漏洩検知等をおこなうCPS(サイバー・フィジカル・システム)による顧客価値の提供および外部連携のためのIoTソリューションにつながる技術開発を進めていきます。新技術棟「e-THIRD」については、オフィススペースを環境試験室に見立て、開発した機種を実環境下で評価をし、それを自ら体感するという『実証ラボ』とし、これにより、ヒートポンプソリューションの更なる改善とお客様へのリアルな提案を目指していきます。 今回、東芝キヤリアの技術の歩みと未来への展望を技術史としてまとめることとなりました。これまでの発展を築かれたみなさんに改めて敬意を表するとともに、稼働をはじめたこの「e-THIRD」から、世界へ、そして未来に向けた革新技術の開発を行っていきます。

元のページ  ../index.html#11

このブックを見る