東芝キヤリア技術史
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7- 可変気筒デュアルコンプレッサ5- 直流ブラシレスモーター搭載の効果 1993年(平成5年)には世界初の直流ブラシレスモータ搭載に成功した。それはDCツインロータリーコンプレッサと呼ばれ、DCインバータ(永久磁石を埋め込んだロータの位置を検出しながら、フィードバック制御により精緻にコントロール)との組み合わせで大幅な省エネを達成すると、それらを搭載した家庭用エアコンRAS-251NTD、RAS-281NTD(ツインDDシリーズ)は、その年度の省エネバンガード21(現在「省エネ大賞」)で最高賞となる通商産業大臣賞を受賞した。 また、直流モータの電磁解析技術は同時期に進化を遂げ、その後埋め込む磁石の材質や形状、電磁鋼板の設計等、様々なモータ効率改善の技術が織り込まれていくことになる。6- 集中巻コイルの効果 1999年(平成11年)にはDCツインロータリーコンプレッサを次のステージに押し上げる技術が生まれる。それが従来の分布巻方式に変わる世界初(注1)の集中巻方式直流ブラシレスモータ搭載コンプレッサである。集中巻方式の特長はステータに直接銅線を巻き付ける構造で従来に比べて巻き線の使用量を約35%低減でき、銅損の大幅な改善により中低速回転領域での効率改善効果が顕著となる事だった。それは同時に省資源とコスト低減(小形軽量化)にも寄与した。また、巻線間の隙間を従来モータよりも十分大きく取れ、この隙間を冷媒ガスの通路として有効活用することで、圧縮機から冷媒と共に吐出される潤滑油の量を大幅に低減し、圧縮機の信頼性をよりいっそう向上する事になった。 集中巻方式コンプレッサとそれを駆動するPAM&PWMハイブリッドインバータを搭載した家庭用エアコンRAS-225YDR他、255、285、325、406、506YDR(大清快シリーズ)は、その年度の省エネ大賞「通商産業大臣賞」を受賞している。注1:集中巻きコンプレッサは、同年、三洋電機からも発表されるが、   両社はそれぞれ独自開発による。()0トルク変動%28偏芯する二つのローラーが、回転軸を中心に相互に引っ張り合うように回転し、冷媒ガスを圧縮する方式。回転時のトルク変動が低減し、滑らかな回転と、エネルギーロスの少ない運転が可能となった。バランサー(図1)ツインロータリーコンプレッサ■シャフト回転トルク特性従来ロータリーツインロータリー10050120240バランサー360ローラー回転角度(DEG)くなり、低速回転では摺動部の信頼性が悪化する。さらに30rps(1秒間に30回転)よりも低くなると極端に振動が大きくなり正常な運転ができなかった。 そのような中、一つのアイデアが生まれる。それは偏芯する軸の180度対角にもう一つ偏芯軸を持つ構造にすれば、互いに振動を打ち消し合い、滑らかに回転するのではないかというものであった。そして、試作品が作られるとすぐに製品開発部門に渡された。結果は、振動面では高速も低速も良好で、特に低速側ではそれまでの30rpsの限界を軽く突破できた。しかしながら、性能面では従来のものよりも悪化する結果となり、製品開発部門からは不評だった。 それでもこの構造が”ロータリーコンプレッサの未来”であることを直感し、その後も開発は続けられ、ついに1988年(昭和63年)性能を満足し、かつ小形軽量、低振動が特長のツインロータリーコンプレッサA1シリーズが誕生するのである。当時、最低回転数は15rpsだったが、現在は摺動部の耐摩耗技術の他、直流モータ化、駆動制御の高度化などにより約5rpsまでの低速化が進んでいる。 前出の188X1で確立した信頼性評価手法に基づき開発されたツインロータリーコンプレッサは、今日の「東芝のコンプレッサは強い」との評価の始まりとなった。従来ロータリーシャフトツインロータリーシャフト 2004年(平成16年)、更なる低能力域での高効率運転技術が開発された。それが世界初の可変気筒デュアルコンプレッサである。従来のコンプレッサは9rpsまで低回転化が可能となっていたが、次世代省エネ(高気密、高断熱)住宅の登場等で更なる低速域での高効率化が求められていた。 可変気筒技術とは、ツインロータリーコンプレッサの片方の圧縮室を能力負荷が低い時は休止して効率を上げるものであり、同時に最低回転数は約5rpsを実現、能力を絞っても適正な圧縮率を保ち高効率を維持する事ができ、扇風機並の消費電力の連続運転で、快適性と省エネを両立した世界唯一のエアコンを実現するものである。海外の学会でデュアルコンプレッサを説明した際に、聴衆から『もっと簡潔に説明しろ』と言われた際、『デュアルコンプレッサは、地球温暖化は止め

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