東芝キヤリア技術史
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29ツインロータリー構造は、主軸受と副軸受の二つで、トリプルロータリー構造は、主軸受、中間軸受、及び副軸受の三つでクランク軸を保持している図2:ツインロータリー構造とトリプルロータリー構造ますが、コンプレッサは止まりません』と答えたとの逸話が残っている。まさに言い得て妙の回答である。 現代の高気密高断熱化が進んでいる省エネ住宅ともベストマッチなこの技術は、カタログの数値には表現できないが、実運転時の省エネに有効であることは第三者によるテストで実証されており、空調業界よりもむしろ建築学会や電力会社等から高い評価を受けている。今後この技術の家庭用途以外での展開が待たれる。8- 大容量化開発のはじまり ツインロータリーを端緒とする第二の潮流である大容量化は1990年代に始まっている。従来、ロータリーコンプレッサの大容量化は、主に振動や摺動部の信頼性の悪化を伴うため困難とされていた。ところが、ツインロータリー方式による回転バランスの向上は、この大容量化に伴う振動抑制や摺動部の信頼性を大幅に向上することができたのである。1990年代には家庭用大形リビング用途に2馬力クラスのA2シリーズが開発されると、列車用に6馬力までカバーするA3の一定速ツインロータリーコンプレッサ等が開発されており、これが大容量化のはじまりとされる。9- 大容量化開発の加速 1998年(平成10年)に世界で初めてR410Aを採用したエアコンを発売すると、そこで使われた高効率冷媒R410Aとツインロータリーコンプレッサとインバータとの組み合わせが、機器の効率化と省資源を進めるものとして、業務用分野に展開させる「インバータ&グリーン戦略」が決まった。奇しくも1999年(平成11年)の米国キヤリア社との業務提携による業務用空調事業分野の強化もあり、コンプレッサの大容量化の開発は一気に加速することになる。 R410Aは高効率である反面、凝縮圧力が従来冷媒の1.6倍となりその対応が課題であったが、家庭用エアコンでの高耐圧設計の知見を活かすとともに、摺動部強化や更なる加工精度の向上等で課題を克服し、ついに2000年(平成12年)、大容量DCツインロータリーコンプレッサA2,A3シリーズの開発に成功した。それらは、業務用空調機スーパーパワーエコシリーズに搭載され、その年度の省エネ大賞では製品とコンプレッサが各々受賞するダブル受賞となった。その翌年には一定速機の更新需要をターゲットに開発された「省エネ、軽量、コンパクト」が売りのインバータ室外機、スマートエコシリーズに搭載されると、日本における業務用空調機のインバータ化率100%へのはじまりとなった。A3シリーズはその後ビルマルチにも搭載され、当社はビル用マルチシステムにロータリーコンプレッサを世界で初めて採用したメーカーとなった。続いて更に大容量化したA4シリーズを開発し2010年空冷モジュールチラーに搭載した。その吐出容積は実に79cc(後に100CCまで拡大)となり、世界でも類を見ない16馬力クラスツインロータリーコンプレッサを完成している。この家庭用小容量から産業用大容量迄幅広くラインナップしていることが、ロータリーコンプレッサが東芝キヤリアのコンプレッサの代名詞と言われる所以である。10- ツインからトリプルへ 搭載する機器の更なる高効率化とコンパクト化という課題克服のため、20馬力クラス(吐出容積にして120cc)の大容量コンプレッサの開発方針が固まる。設置スペースを同等、つまりコンプレッサのケース径(170mm)同等で吐出容積を20%拡大する場合、ツインロータリー方式では振動、騒音が増大するとともに、軸負荷、シャフトたわみ等による信頼性の確保が難しい事がわかった。そこで、圧縮室を三つ配置することで、大容量、高効率、低振動・低騒音のトリプルロータリーコンプレッサを開発した。(図2) 3室の偏芯軸がそれぞれ120度の位相差を設けて圧縮するため、180度対角のツインロータリーコンプレッサよりも更にトルク分散することで、高効率、大容量、低振動に効果がある。また中間軸受を持つことで、シャフトたわみ、軸負荷が抑制され大容量コンプレッサでは初となる最低回転数10rpsも達成し、従来よりも低能力範囲を拡大している。 このトリプルロータリーコンプレッサを搭載したスーパーマルチuシリーズの大容量筐体は、2020年度の省エネ大賞最高賞である経済産業大臣賞を受賞した。11- さいごに 振り返れば、ロータリーコンプレッサを技提に依らず独自開発する事を決定して以降、省エネのためにインバータ化を行い、188X1の経験により信頼性手法を確立しつつ、良好な部分負荷特性をツインロータリー化や直流モータ採用、可変気筒技術で進化させてきた。そしてツインロータリー構造が扉を開いた大容量化で用途を拡げながら今日のトリプルロータリーコンプ

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