東芝キヤリア技術史
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36ズは縦横比で言うと2~2.5(代表:高さ360mm横幅815mm)あたりに収束しておりデザインも木目調が訴求カラーであった。 一方、一般家庭でも洋室が増えていく中で、エアコンの定位置であった掃き出し窓と天井間の寸法も、顧客指向と建築技術の進歩により徐々に狭くなっていた(=掃き出し窓が高くなってきた)。そのようなエアコンの据付環境の変化への気付きから、関連する情報を集めて「形を変えるとどうなるか」を模索。その結果、掃出し窓上への据え付けや、袖壁への据え付けに適した形として、それまで誰も見たことのなかった縦横比3(高さを298mmに抑え、横幅は半間ギリギリの900mm(奥行は168mm))のサイズに潜在需要があるのではないかと考えたのである。 そして、1990年(平成2年)、前述の横長サイズで丸みのある面構成、主流の木目調デザインに代え、絶妙な凹凸を有するシルキーホワイトベースの高級感のある色のエアコンを「スタイリッシュエアコン(RAS-S281YTR)」として発売した。すると、意図した据付自由度の実益以上に、その斬新なデザインにより店頭での見栄えが良かったこともあり、顧客の潜在需要にもマッチして爆発的に売れたのだった。(図3) 実はスタイリッシュエアコンを発売するにあたり、保険として従来サイズの室内ユニットも同時に開発、発売している。しかも当初の生産台数は従来サイズが8割で企画されており。当時新しい筐体のサイズがどれだけ不安だったのかを物語る数値である。結果は前述の通りで、スタイリッシュが生産台数でも逆転してしまったわけだが、スタイリッシュの成功の陰で同年度に従来サイズの製品も開発した事実は意外と知られていない。4-スタイリッシュエアコンが生み出した室内機の進化 スタイリッシュエアコンの縦横比とラウンドフォルムには、副次的に厚さ(奥行寸法)方向へ寸法が拡大しても違和感が出ないというメリットがあった。それはその後の室内ユニットの省エネ性能向上には欠かすことのできない天面吸い込みの始まりであり、また、大径ファンと、そのファンを覆うように背面まで伸びる熱交換器搭載への進化に道を開く画期的な形態変化であった。その優位性は絶対的で、それ以降、現在(2020年)に至るまで、世界の家庭用エアコンの縦横比は2.5~3に集約されている。まさにその後の壁掛室内機デザインの潮流を作ったと言えよう。 スタイリッシュエアコンはさらにもう一つデザインにおける潮(図3) スタイリッシュエアコン RAS-S281YTR流を生み出している。それが2001年(平成13年)に発売された、お掃除のしやすさと同時にエアコンをより美しく見せるため業界初となる前面吸い込み部の横格子を完全廃止した、いわゆるフラットパネルエアコンである。前面をフラットパネル化するデザインは、当初運転時は開いて、停止時は締まる可動式だったが、その後、奥行寸法拡大を伴う押し出し感が許容されたことから固定式のフラットパネルに変化していった。5- 家庭用エアコンではスタイリッシュ以外にも各社から全く新しい形態が提案された時期がある。当社でも背低化と極端な奥行寸法を持つ「マイルールエアコンoff」シリーズ(図4)や、壁掛式床拭きの「ゆっかポッカ」シリーズ(図5)や、輻射パネルエアコンといった製品を発売したことがある。それぞれ目的とする意図はあったものの潜在ニーズの掘り起こしにはつながらず、1世代あるいは2世代で消えていった。 しかしながら、製品は消えてしまったが、それを開発したときに得られた技術は技術者の中に残り、その後の開発に活かされている。6- 家庭用エアコンの室内形態において、現代のエアコンに通じる潮流を作ってきた物語を振り返ってみたわけだが、これは家庭用エアコンに限った話ではない。これからも既存を当たり前とせず、世の中の兆しを捕らえ、想像力を働かせてあるべき姿を模索する思考は活かせるものである。ぜひ、アイデアを形にし、実証ラボで検証(見て触れて使ってみる)する事で、その先にある顧客の潜在的なニーズに近づいてほしい。(図4) マイルームoff(図5) ゆっかポッカその他の異形態へのチャレンジさいごに

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