東芝キヤリア技術史
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3- 今では当たり前の省エネ大賞であるが当時は認知度も低かったこともあり、ルームエアコンでは初の受賞、しかも最高賞を取れたことをカタログやテレビコマーシャルで宣伝した。「省エネ」と「通商産業大臣賞」という語句のインパクトもあり、あたかも「省エネ性で国からお墨付きをもらった唯一のエアコン」という(まちがってはいないが)評判が立つと、他社にとっては「寝耳に水」「何なんだ、それは」の話であり、ある意味抜け駆けという印象を持たれた。日本冷凍空調工業会(日冷工)に所属する競合他社からは、まず、「東芝独自の評価指標というのがとんでもない」と、「それを省エネ半分の根拠として省エネバンガードの最高賞を取るのはいかがなものか」、「年間電気代というお客様にとってセンシティブな訴求もいかがなものか」、「量販店から”お宅の製品の電気代はどうなの?”と聞かれても答えようがない!」、「日冷工に環境試験室がないのにどうやって較正を取るのか」、「そもそも指標として正しいのか」等の反応がきた。端的に言えば「勝手すぎるだろ」というわけである。4-1- 1993年(平成5年)にルームエアコン通称「ツインDD」シリーズを発売すると、その年度の省エネバンガード21(現「省エネ大賞」)において最高賞となる「通商産業大臣賞」を受賞した。これはブラシレス直流モータを組み込んだ高効率コンプレッサをデジタルインバータで精緻に駆動する他、快適性指標のPMVが一定になるように設定温度を自動調整する等して、過年度製品に対して約30%の省エネと快適性を兼ね備えた画期的な製品であった。だが、そうした革新技術以上に業界が驚いたのは「年間電気代を従来の約半分(省エネ50%)」とする訴求に対してだった。なぜならば、年間電気代約半分を算出する方法が、当社独自の方法だったからである。2-実運転時の省エネ性評価の考え方 コンセプトはこうだ。インバータエアコンは一定速エアコンと違い、室温が設定温度に近づくと高効率な中~低速運転に移行するため、それを評価指標に加味すれば実使用時の省エネ性をより正しく評価できるという実に単純明快なものである。 具体的には、当時導入していた最新の環境試験室(温調された大空間の中に疑似家屋を建て、室内快適性を評価する設備)で、室温が設定温度に達した後(高効率な中~低速運転に移行した後)の消費電力量を室外温度毎に実測し、消費電力量と室外温度特性カーブを作成する。一方、気象データから相当する室外温度の出現時間を抽出し、先の消費電力量に乗じて算出した電力量に、期間別の電気料金を掛けると年間電気代が算出できるというものである。この期間消費電力量の算出方法自体はJISの附属書に記載されていたのだが、それを年間電気代の算出に使い、訴求に使おうなどとは誰も考えていなかった。41 それでも、実運転時の省エネ指標が正義という考えは揺るがない。インバータエアコンの長所を正しく評価する事が、ユーザーに正しく情報を伝え、省エネ機器を普及させることに繋がり社会的な意義もあるのだ。 それからは、他社からの疑義に対して丁寧に回答し、関係省庁に対しては日冷工を通して実運転時の省エネ指標の意義を説明していった。そのうち、同じツインロータリーコンプレッサを採用しているメーカーから賛同者が出ると、徐々にではあるが省エネ推進のためにもその指標を作る意義が理解され始め、工業会としても規格化へのコンセンサスが形作られていくのである。ツインDDシリーズ発売とその衝撃省エネ大賞受賞後の反応実運転時の省エネ指標は正義インバータエアコンの省エネ指標である通年エネルギー消費効率算定基準のはじまり 2005年にJIS(日本工業規格)に採用されたルームエアコンの通年エネルギー消費効率算定基準(通称APF:Annual Performance Factor)はインバータエアコンの効率を評価する指標として定着しているが、それ以前にはそれを評価する指標はなかった。初物語

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