東芝キヤリア技術史
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2543れた。 その後、2006年には国の省エネトップランナーの算定方式に採用されるのだが、それに伴い、日本では業務用エアコン、ビル用マルチエアコンについてもAPFが省エネ指標として採用されていった。 APFの策定は、特に2000年代に入ってからも一定速機が主流だった業務用空調業界においてインバータ機に切り替える原動力となった。そのきっかけも当社なのだが、それはまた別の物語で語る。いずれにせよ、それはエアコンの省エネ性の底上げにつながり、現在の日本のエアコンのインバータ化率を世界でも類を見ない100%に至らしめる道筋は、この時の苦渋の決断で決まったとも言えよう。それは、インバータエアコンを初めて世に送り出したメーカーの運命だったのかもしれない。9- 一方、世界でも部分負荷を考慮した省エネ評価指標の導入が先進国を中心に進んでいる。APFもあるが、IPLV(Integrated Part Load Value)やSEER(Seasonal Energy Efficiency Ratio)、HSPF(Heating Seasonal Performance Factor)と呼ばれる指標の方が一般的である。それらは部分負荷の重みづけは部分負荷係数と呼ばれる数値を基に算出される。(APFは日本の気象データがベース)また、部分負荷は定格の100%,75%,50%,25%としており、負荷率毎に室外温度条件が異なる。さらにSEERでは0%いわゆる停止時の待機電力も算出データに加えるのが特徴である。いずれも25%の性能が使われるので、当社には相性が良い。ただし、75%の重みづけが50%、25%よりも極端に大きいため、個別分散空調するインバータ機器の良さが反映しきれない部分もあり、痛しかゆしといったところである。(表1)部分負荷を加味した省エネ評価指標の違い指 標負 荷定格性能中間性能暖房低温定格の100%定格の75%定格の50%定格の25%APF2006年IPLV室外温度条件定格定格2℃定格定格外気温出現時間(日本の気象データベース)部分負荷係数(米国AHRIベース)負荷毎に設定重みづけ世界の部分負荷効率評価指標さいごに10- 基準は時代とともに精錬される。APFも2013年の改正で、中間冷房中温条件、最小冷房中温条件、最小暖房標準(最小は任意)が加えられた。ただし、最小能力を絞れる製品とそうでない製品とで、断続運転時の冷凍サイクル立ち上がりの電力ロスの違いを考慮しないため最小能力を絞れるメーカーの方が不利な算出結果になるのは残念なところである。また、SEERのように、待機電力の織り込みも今後検討されることだろう。一方、IPLV、SEER、HSPFでは部分負荷係数を空調方式により細分化したいところもある。これらについては今後検討される事を期待したい。 今回、振り返って思うのは、良い製品を開発するのは技術者の最大の役割である一方、開発した良い製品を正当に評価される仕掛けを作る事も技術者の重要な役割であろうという事である。それは当社が目指す、「環境創造企業として社会に貢献する」という理念にもつながると思うのだ。 良い評価指標とは、社会にとって本当に良い製品に対して公平で公正な評価を与える事ができるものであり、それを提案・改訂してゆく事は、正しい技術開発の方向性を照らす事に他ならない。我々が今後も技術力を成長エンジンにしてゆく限り、その重要性は揺るがないのである。

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