東芝キヤリア技術史
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44エピソード 店舗・オフィス用エアコンというジャンルがあるが、当社ではその同義として「カスタムエアコン」と呼ぶことも多い。その呼び名が何処から来たのか紹介したい。1- 1955年(昭和30年)、柳町工場で床置形3HPパッケージエアコンRAC-301を開発・販売したのが、東芝における業務用エアコン事業開始の第一歩であった。 業務用空調機は3馬力クラスと言えども筐体サイズが大きく重量もあったことから、本体をプレナム室、送風機室、機械室の3パートに分けて梱包出荷され現地で組み立てを行うのが一般的で、据付については設備機器として高度な空調知識と据付技術を有する専門の空調設備業者が扱う高度な製品というのが常識だった。 ところが、昭和40年代になると、業務用空調機の中でも商店、飲食店、小規模事務所などの市場に向けた需要が急速に高まってきたため、工事が簡単で定価販売できる空冷式の小型機種への要求が強まっていた。2- 「業務用エアコンは専門の設備業者が据え付けるのが当たり前」だった時代の1977年(昭和52年)、東芝からその常識を覆す画期的な空調機が発売された。そのコンセプトは「大きな木かげ(注1)」つまり、家庭用エアコン並みに簡単工事で据え付けられる業務用エアコンである。 能力ラインナップは業務用の最小クラスである3HPと5HPに加え、従来は無かった4HPを加え市場の多様性に応えることにした。そして、問題の据付性については、コンセプトを基に室内機は現地でのダクト工事を伴わない直膨タイプの床置形室内機6機種と天吊形1機種を用意、そして、室内ユニットの一体構造化と、据付場所に多様性のあるL形室外ユニットの採用などにより、重量軽減、据付床面積の低減を実現した。簡単に言うと家庭用と同じく室内機と室外機を設置して配管と配線を接続すれば運転できた。 こうして誕生した業務用エアコンは、従来とは区別するため新しく「カスタムエアコン」と呼称することにした。据付が簡単で納期も早いカスタムエアコンは分かりやすく、また他社の追従もあり、業務用空調市場に「店舗・オフィス用エアコン」という新ジャンルを創出し、日本の業務用空調市場成長を助けることになるのである。3-“カスタム”に込められた思い 「カスタムエアコン」という呼び名は東芝の造語である。社内用語であるから、当然、社外では通じない。英語の”custom”は、名詞として「慣習」「愛顧」、”customer”となると「顧客」という意味になる。また、形容詞としては「オーダーメイドの」、「あつらえの」という意味を持つ。つまり、東芝カスタムエアコンという呼び名には「お客様のための」「お客様に愛される」「お店やオフィスの様々な空調ニーズに合わせてカスタマイズできる」エアコンという意味が込められている。 また、カスタムエアコンは今までの設備機器の概念から脱却すべく、業務用エアコンとしては異例のコンシューマー向けであるテレビCFも製作・放映された。当時カスタムエアコン立ち上げに関わった人たちの意気込みが伝わってくる逸話である。注1:当時、東芝の家庭用ロータリーエアコンのペットネームは「木かげ」を  使用していた。当社における業務用エアコン黎明期カスタムエアコン誕生カスタムエアコン物語

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