東芝キヤリア技術史
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ビル用マルチ空調システムのあゆみ6-第五世代:スーパーモジュールマルチ     uシリーズ(SMMS-u) 2020年(令和2年)に発売されたスーパーモジュールマルチuシリーズ(以下SMMS-u)は、名前こそSMMSのシリーズアップとなっているがプラットフォームを一新した次世代型に進化している。 (図4)① 構想 マルチシステムには、単なる冷暖房の空調機能だけでなく建物の価値向上や設計・施工・運用・サービスや更新のし易さなど、製品ライフサイクルを通してステークホルダーのメリットにつながるソリューションが求められるようになってきている。「マルチの未来とは」、「マルチとは何なのか」を改めて問い直し、機器単体の効率向上とコンパクト化は勿論、日本のみならず海外のあらゆる市場でシステム商品としてのニーズに応えられるように、拡張性を持たせる商品に仕上げる方針とした。 このため、商品構想と同期して海外販社、国内営業部門のキーマンとFace to Faceによるコミュニケーション機会を作り、製品の最終ビジョンを共有し、顧客価値に優先度をつけ、要素技術の先行開発および量産開発を行った。② 機器の効率向上とコンパクト化 マルチシステムはビル屋上に設置されることが多く、機器のコンパクト性と効率向上の両立が求められる。そこで、今回、機器のコンパクト化と効率向上実現のため、世界初となる容量20馬力クラスのトリプルロータリーコンプレッサ(コンパクト化に寄与)や、空調用コンプレッサでは世界初となるオープン巻線モーターを二基のインバータで駆動するデュアルステートインバータ(効率向上に寄与)を開発、国内向け20馬力モデルにおいて業界最小サイズと業界No1省エネ性能を両立させている。 一方、冷凍サイクルも部品毎の機能を分析、冷媒とオイルのセンシング・制御技術の高度化によりコンパクト化設計を織り込んだ。更に室外機筐体の構造を上下分割型構造から上下一体型構造へ変更するとともに、熱交換器形状をW形にすることで、従来よりも熱交換器前面面積を15%アップさせている。③ ビル空調の核心、VRF(適正冷媒流量;  Variable Refrigerant Flow)制御の更なる進化 今回の開発ではセンシング・制御技術の高度化により、据付49の多連結化技術は全く異なる。チラーでは各ユニットの加熱量の連携とそれを搬送する水のコントロールに独自の技術を要するが、ヒートポンプサイクル自体はユニット内で固定される。一方、マルチの場合は連結した室内、室外ユニットおよび接続配管全体で一つの冷凍サイクルを形成するため、無尽蔵となる組み合わせに応じてユニット間の冷媒や冷凍機油をコントロールする独自の技術を要する。 なお、当初冷媒はR-22だったが、2001年にR407Cに切り替えている。当時すでに、インバータ&グリーン戦略のマルチ展開の方向は定まっていたが、その実現は大容量コンプレッサが完成する2003年まで待たなければならない。5-第四世代:スーパーモジュールマルチ(SMMS) 中部電力(株)殿と共同開発し、2003年(平成15年)に発売したスーパーモジュールマルチ(以下SMMS)は、マルチ版モジュールコンセプトを更に進化させている。モジュールユニットを全てインバータ駆動することで、5,6,8,10,12馬力の室外機をターミナル専用機、増設機の区別無く大小2つのプラットフォーム筐体に集約している。これは電源系及び技術法規の違いからくるローカルフィット設計を施せば、素早くグローバルに機種展開でき、且つ商流においては在庫管理の容易さを実現した。 また、本機種では、高効率のR410A冷媒をマルチに初採用し、各要素部品の効率改善や、能力可変幅の拡大で部分負荷特性等を向上させ、期間消費電力量(日本冷凍空調工業規格JRA4055で算出)は従来機種に比べて約50%と大幅な省エネに成功している。 その後、SMMSは筐体構造を継承し、2010年(平成22年)にiシリーズに進化した。冷媒分流制御技術を発展させ、配管長さ、室内外落差等の設計自由度を更に向上させ、大規模ビルや、工場等への対応を容易にしている。省エネ運転制御でもコンプレッサの最も効率の良い能力域(30%~80%)で運転するように調整したり、連結ユニットの運転偏りを無くすなどオールインバーターのメリットを大いに活用している。また、iシリーズは初めての3拠点製造(日本、タイ、中国)モデルとなり、超円高下にあってマルチシステムの海外売上台数の急速な伸長を支えた。さらには、2015年(平成27年)には、海外からの大容量化の要求に応えて大容量筐体を加えたeシリーズ(海外専用モデル)を発売しており、SMMSの基本設計の高さがうかがえる。(図3)(図3)スーパーモジュールマルチ[4連結](図4)スーパーモジュールマルチ u(12HP、20HP)

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