東芝キヤリア技術史
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0℃7℃冷媒︵ガス︶冷媒︵液+ガス︶1℃ヒートポンプの原理膨張弁5920℃22℃高圧液凝縮器蒸発器0℃0℃5大気の熱35℃圧縮器電力室内吹出空気60℃高圧ガス低圧ガス5℃実証オフィス室内20℃室外7℃1入力(電力)の数倍の熱量が得られる 昨今、SDGs(持続可能な開発目標)やESG投資などのキーワードで、企業の環境や社会への取り組みがクローズアップされている。東芝キヤリアは2010年(平成22年)に経営ビジョンを改訂して以来、ヒートポンプソリューションカンパニーを標榜し、「社会並びに地球環境に貢献するグローバルに成長する環境創造企業」を目指してきた。 我々の事業の軸であるヒートポンプ技術は、圧縮機と冷媒を用いて熱を移動する技術であり、自然に存在する空気や水が持っている熱を回収することで「暖房」「加熱」を、逆に室内や庫内の熱を回収して外界へ排出することで「冷房」「冷凍」を実現できる。我が国や欧州では、そのエネルギー効率の高さから、ヒートポンプ技術で得られた熱エネルギーが再生可能エネルギーの一つとして位置づけられ、期待されている。 これまで、空調機を中心とした製品開発において、コンプレッサ、インバータ、ファン、熱交換器、冷凍サイクルなど要素技術を中心とした機器効率向上に取り組んできた。生み出された省エネ製品は、世の中で使用され、幸せなことに技術者の取り組みと社会要求が一致していた。今後もこれら基本性能の向上技術の積み上げが、我々技術者の本質的な仕事であることに変わりはない。それに加えて、事業環境の変化を常に意識し、小さな変化が引き起こす影響を想像し、対応していく姿勢が望まれる。 熱の移動の役割を担う冷媒への要求は、この20年で大きく変貌を遂げた。20年前、オゾン層保護のためHFC冷媒に切り替わりつつあった時期には、温暖化とはエネルギー問題であり、HFCが温室効果ガスとしてここまで削減すべき対象となるとは想定していなかった。現在、国際的な取り組みとして、気候変動枠組条約締結国会議で採択されたパリ協定(2015年、平成27年)による温室効果ガス削減およびHFCまで規制を拡大したモントリオール議定書の実証オフィス2(4F南)実証オフィス1(3F南)試験室(1F)屋上コアテクノロジーセンター佐藤 全秋キガリ改正(2016年、平成28年)があり、これらの達成に向けて、省エネや冷媒の規制が各国・地域で始まっている。キガリ改正への対応では最終的に2036年までにHFCの使用を2010年代の15%まで削減する必要があるが、有力な低GWP冷媒が存在しないことから、製品群ごとにどの冷媒を選定すべきかの判断が難しい。低GWP冷媒のほとんどが燃焼性を持つため、安全性・信頼性と省エネ性を両立しつつ、顧客が許容できるコストを実現する必要がある。そのための冷媒選定および関連技術の開発は、省冷媒化や漏えい抑制・検知技術を含め、グローバル共通の重要課題であり、継続して取り組んでいく。 一方、技術者の立場においては、会社の成長への貢献として、付加価値の向上や市場の拡大(地域、用途)を企図していかなければならない。さらに、『「モノ」から「コト」へ』と言われて久しいが、ハード一辺倒ではなく、総合的な価値を提供することを意識した技術開発が求められる。 2020年(令和2年)、富士事業所に新技術棟e-THIRDが竣工し、富士事業所の技術者のほとんどがe-THIRDで執務するようになった。e-THIRDでは、執務スペース自体が環境試験室として機能するように計測設備を設け、「実証オフィス」化した。今後は空調システムの比較評価だけでなく、組み合わせによる省エネ運用検討により機器への機能付加や空調ソリューションの提案につなげられる実証オフィス3(4F北)146個71個366個25個画像センサ輻射温度センサ温度センサCO2センサセンサ計609個エントランス6今後の技術展望将来に向けて

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